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好きなものを語ります。 本宅(http://chickpig.nobody.jp) 整頓中。

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2024 
September 17
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2012 
August 20
『銀二貫』

高田郁
幻冬舎 時代小説文庫
 
『みをつくし料理帖』シリーズの作家さんの作品を見つけたので購入。
この方の文章はとっても読みやすいです。
テンポがよくて、ひっかからず、
するする読めるからいつも一気に読みきってしまう。
お話の中に自然に入っていけて、
登場人物の心情にそっと寄り添える柔らかさ。
 

【軽くあらすじ】

時は江戸時代。
大阪天満の小さな寒天問屋の主・和助は、
火事で燃えてしまった天満宮再建の為、
必死に集めた大金・銀二貫を懐に持っていた。
 
しかし店へ帰る道中、偶然遭遇した逃げてゆく侍の親子。
そしてそれを追ってきた若侍。
目の前で果たされる仇討ち。
トドメをさすことを邪魔をするなら貴様も、と息巻く侍から子供を救うため、
和助は「その仇討ちを銀二貫で買います」と申し出る…。



【感想感想】
 
料理帖シリーズのご寮さんや澪の故郷が舞台なんですね。
上方言葉?というのでしょうか、私には馴染みのない、
現代の関西弁とも少し違う印象を受ける、まろい訛りがとても素敵です。
「嬢さん」と書いて「いとさん」と読むなんてめっちゃ愛くるしい!
 
登場人物がみんな素敵です。
店の規模こそ小さいけれど、器が大きく鷹揚な老店主・和助。
和助に救われて、侍の身分を捨てて商人として仕込まれる鶴之輔改め松吉。
有能で忠義者だけど、信心深いがゆえに
お布施の為の大金を子供一人に使ってしまったことをよく思わない番頭・善次郎。
ほがらかな兄弟分・梅吉に、
そして元は料理屋のお嬢さんだったのに、大火で顔の半分を火傷してしまった真帆。
 
この作品は、番頭の善次郎イチオシです。
初登場で50がらみのちょっと意地悪な番頭さんですからね、
かっこいいとかじゃないんだ。でもすごくいい。

有能な番頭としての和助とのやりとりに始まり、
やっと貯めたお宮再建のための大金を
役に立たない子供につぎこんでしまったことがずっと納得いかなくて、
事あるごとに松吉に辛く当たったり。
それでも長年共に暮らすうちに、不器用ながらも誉めてくれたり。
そのうちに彼が信心を強めるきっかけになった出来事がわかったり、
いつしか松吉を案じたり頼りにするようになったり。
感情の流れや、時を重ねるうちに緩和されたり、考え方が変わっていく様がすごく分かる。
「旦那さん、これを」のシーンはぐっときました…
 
松吉は松吉で、いつしか善次郎に認められないのは悲しい、
認められたい、と願うようになったりするのがたまらない。
この子も真面目で、それでいて執念の子なのが素敵。
 
楽ではない仕事を重ねていく日々の中で、
料理屋の娘・真帆との恋模様もそっと展開するのですが、
ヒロインの真帆もまたすごく可愛いんだ…可愛いというか愛おしいんだ…
母はもともといなくて、10歳の頃に大火でお父さんを目の前で亡くして、
顔の半分に、女としては致命的なほどのひどい火傷を負って。
そうして同じ時に目の前で娘を亡くした女性に自分の娘だと思いこまれ、
共に炎から逃げ出して、親子として暮らしだす。
歪だけれど、本当のお母さんとして娘として、
労わりあって暮らす日々が優しくて、悲しくて。

松吉とうまくいってくれてよかった…本当によかった。
あと羊羹すごく食べたくなる…


 
重要な場面で何度も、『銀二貫』という言葉が出てきます。
元々は天満宮再建のため、信心のために集めた大金。
最初は小さな子供を助けるために使われた。
その後ふたたび貯め続け、
ようやく半分である一貫が貯まったところでまた必要な出費が出てくる。
再度二貫が貯まると、また大事な人がそれを必要とする…

善次郎がね、最後の時にはためらわないのがたまりません。
まるで悟ったみたいに。
これは運命なのだと。
誰かを助けるために巡る定めなのだと。
最初に仇討ちの代金として侍に渡した銀二貫も、
彼が村の再興資金に使っていたことが分かったときの清々しさよ…!
 
それぞれの苦難の果てに、みんな幸せになります。
「ああ、よかったね。いろいろなことがあったけど、よかったね」って言える終わり方をします。
夢みたいな言葉ですけど、その言葉が納得できる終わり方をした
物語の、なんて愛おしいことでしょう。
 

 
日々を暮らして年を重ねていくこと、それに伴う変化や変容。
働くことの苦しさと、時にそれを凌駕する喜び。
出てくる人々はそれぞれの過去や悲しみを背負いながらも健気で、
お互いを案じながら、思いあって生きていく。
 
ああ、生きていくって基本的にしんどいよね、ってふっと思い出させてくれる作品です。
そしてそれは決して悪いことじゃない…と思う。
 
今の日本は大分おかしいことになっていて、
閉塞感に満ちているその反面で、
メディアはいかに辛いことを忘れて楽しく生きていくか、
美味しいものとか綺麗なものとか様々な娯楽をたくさん取り上げているから、
なんとなく「幸せでないことは可哀そうなこと」みたいな感じがするじゃないですか。
 
もちろん美味しいもの食べたら幸せだし、きれいなものは素敵だし、
生きていることって快楽的。
でもそういうんじゃなくて。なんか、根本的な快楽とはちょっと違う感じで。
甘やかされて、結果ごまかされてるような風潮があるような気がするのですね。
 
かといって、辛いほうが偉いなんてことは全然ないと思うんです。
平和で辛くないほうがいいに決まってる。
ただ、生きていくってそういうものだ、って思うと
しんどいけど、しんどいなりに腹が据わるっていうか。
目の前の仕事をこなして周りに感謝して生きよう、みたいな気分になります。
 

うまく言えないな…
何度も繰り返して言葉にしていくうちに、
きっともっと伝わる言葉になるでしょう。

 
…ところで読了後羊羹が無性に食べたくなって困っていたら、
タイムリーなことにとらやの『夜の梅』をいただきました。
能力者同士は引き合う定め、スタンド使い同士は惹かれあう…
羊羹を欲する心が羊羹を引き寄せたのですね… ゚+.(・ω・)゚+.゚
羊羹美味しいよね羊羹。
私は粒あんがいっぱい混ざってるタイプが大好きです。
 
 
ちなみに同じ作者さんの澪尽くし料理帖シリーズも
心が洗われるうえに美味しそうな名作なのでおすすめです。
こちらもそのうち感想書きたいなあ!
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